Tokyo絆Story

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vol.10 落語家編

人間的な成長が芸に磨きをかける

歌る多さん(左)と美るくさん(右)

歌る多さん(左)と美るくさん(右)

周囲の反対を押し切り、プロの噺家に

落語家一人一人が持つ名前入りの手ぬぐい。高座では扇子と同様、小道具になる

落語家一人一人が持つ名前入りの手ぬぐい。
高座では扇子と同様、小道具になる

   「女性の落語家は昔から少ないですね。落語の登場人物はほとんど男性ですから、やっぱり圧倒的に男性の方が向いているんですよ」。そう話すのは落語家の三遊亭歌る多さん(49歳)。女性の落語家がまだ一般的でなかったころからこの世界に入り、落語協会で女性初の真打になった草分け的存在だ。

 歌る多さんが落語に出会ったのは高校二年生の時。たまたま見に行った落語会で、立川談志さんと春風亭小朝さんの落語を聞き、とりこになった。「お二人の鮮やかな語り口と、人情味あふれる落語の世界に魅せられ、すぐにのめり込んでしまいました」。

 その後、真打にまで昇進した歌る多さんの下には、落語家を目指す若い女性が集まるようになった。三遊亭美るくさん(32歳)もその一人だ。美るくさんは、大学卒業後にIT企業へ就職。多忙な日々を過ごしていたが、部署内であいさつもなく、自己中心的な社内の人間関係に疑問を感じていた。そんな時、友人に連れられて見に行った寄席で衝撃を受ける。

 「落語に出てくる登場人物たちは、他人のために何かをやってもそれを損と思わない人たちばかり。人間味にあふれていてとても魅力的に感じました」。それまで全く無縁だった落語が趣味になり、寄席に通い始めた頃、歌る多さんの存在を知る。「この人こそ自分の理想の姿だ」と確信した美るくさんは、会社を辞めて入門を決意。歌る多さんに直談判し、入門を許された。

師匠から言われた一番うれしい言葉

そばをすする仕草は落語の見せ所の一つ。扇子と表情、そばをすする音で見事に表現する

そばをすする仕草は落語の見せ所の一つ。扇子と
表情、そばをすする音で見事に表現する

 落語家の弟子は、自分の師匠はもちろん、寄席の楽屋で他の師匠たちのお世話もする。「お茶を出すタイミングや着物の畳み方が、一人一人全然違う。それを覚えるだけでも大変でした」。さらに、落語の稽古もしなければならない。電車の中でマスクをして落語をつぶやいたり、師匠の家の掃除中に口に出したりして話を覚えたという。

 だが、前座の修業時代、落語を習ったのは他の師匠ばかりで、実は歌る多さんからは稽古を受けていない。歌る多さんはその理由をこう語る。「落語協会の落語家約270人の内、女性は十数人しかいない。その中で、自分と同じタイプの噺家になっても仕方ない。だから特に前座までは、他の師匠方から基本を教わった方がいいんです」。

落語家の名前がずらりと書かれた2012年のカレンダー。二ツ目の欄に美るくさんの名前が

落語家の名前がずらりと書かれた2012年のカレンダー。
二ツ目の欄に美るくさんの名前が

 落語の技術については口を出さない歌る多さんも、普段の気遣いや心がけには厳しい。特に言い訳が嫌いで、すぐに非を認める潔さを求める。ある時、圓歌師匠の着物をうまく畳めなかった美るくさんが「着物が新しく、素材が柔らかかったから」と話したのが言い訳に聞こえた。「それまでは褒めて伸ばすようにしていたんですが、その日から褒めるのを止めました。先輩方からも、師弟には緊張関係が必要だと言われていましたしね」。

 常に厳しさのある師弟関係だが、美るくさんには歌る多さんの忘れられない一言がある。「実は私には幼い時から母親がいないのですが、入門して2年ぐらい経った時に、父親がガンになったんです。余命3カ月の宣告を受けた時に初めて師匠に、母親のことも言いました。そうしたら一言、『これからは私のことをお母さんだと思っていいから』と。今まで生きていて一番うれしい言葉でした」。

 今年11月、美るくさんは一人前の落語家として認められる二ツ目に昇進した。「芸は人なり。生き様が反映されるものです。彼女にはもっと自分を磨いて、真打になるまでに芸の幅を広げていってほしい」と歌る多さん。厳しくも温かい目線で、これからも弟子のさらなる成長を見守り続ける。

三遊亭歌る多さん(さんゆうていかるた)
1962年東京都生まれ。大学を中退し、1981年に三代目三遊亭圓歌さんに入門。前座名は「歌代」。1987年、二ツ目に昇進し「歌る多」に改名する。1993年に落語協会初の女性の真打に昇進し、現在は落語協会理事も務める。得意な演目は「宗論」「西行」など。
三遊亭美るくさん(さんゆうていみるく)
1979年千葉県生まれ。大学卒業後、社会人を経て2006年に三遊亭歌る多さんに入門。前座名は「歌る美」。2011年11月に二ツ目に昇進し、「美るく」に改名する。レパートリーは「道灌」「初天神」など。

今回の舞台はここ!

落語協会
台東区上野1-9-5 電話番号:03-3833-8563
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